DOCTOR INTERVIEW

外科
清水 壮一副院長
SOUICHI SHIMIZU
専門医チームが連携し、低侵襲治療を行う
当院の外科は、消化器外科を中心に、乳腺外科および呼吸器外科の診療を行っています。対象となる臓器は幅広く、甲状腺、乳腺、手足の血管、消化管(食道・胃・十二指腸・小腸・大腸・肛門)、肝臓、胆のう、膵臓、脾臓など、多岐にわたります。患者さんの身体への負担の少ない内視鏡手術や、高度な技術の求められる癌の手術をはじめとし、虫垂炎などの腹部救急疾患や鼠径ヘルニアなどの良性疾患の手術を行っています。
消化器外科には、私を含めて5名の医師が在籍しており、それぞれ専門分野を担当しています。肝胆膵外科を私が担当し、上部消化管(食道・胃・十二指腸)を専門とする医師が1名、下部消化管(大腸・直腸)を担当する医師が2名います。さらに後期臨床研修医が1名、大学から派遣されており、チームとして幅広い消化器疾患に対応できる体制を整えています。
乳腺外科は常勤の専門医1名に外来非常勤2名を加えた診療体制で、増加傾向にある患者さんへの対応を行っております。呼吸器外科も専門医1名が在籍し、呼吸器内科との緊密な連携をとりながら診療を行っております。また、大学からの非常勤医師による血管専門外来・末梢血管手術を行っています。 各分野の専門性を尊重しつつも、互いに協力しながら診療を行うことで、患者さんにとって最適な治療を提供できるよう努めています。

肝胆膵外科が専門
私が医師を目指したのは、通っていた高校には医学部を目指す同級生が多数おり、その影響を受けて医師という職業を意識するようになりました。当時は特に志があったわけではありませんが、理系の進路を模索する過程で専門性が高く、手に職をつけられる仕事として医学部を選びました。
慶應義塾大学に進学し、医学の基礎を学んだ後、進むべき道を決める際には内科か外科で悩みました。最終的には、がん診療に携わりたいという思いと手技を身につけられることを重視し、外科を選びました。肺に関心があったため、当初は呼吸器外科も考えましたが、手術を経験するうちに、消化器の分野により興味を持つようになり、その中でも肝臓・胆道・膵臓の手術に魅力を感じ、消化器外科を専門にすることを決めました。現在は肝胆膵外科を専門としていますが、膵臓がんを専門とされている消化器病センターの相浦先生とは大学では同じ研究班に所属していました。
標準治療と個別対応を両立した手術
外科治療において重要なのは、合併症を最小限に抑え、安全に手術を行うことです。医学的なガイドラインに基づいた標準治療を確実に提供しながらも、患者さんの状況に応じた柔軟な治療を心がけています。
患者さんの中には多様な背景を持つ方も多く、単純な疾患だけではなく、基礎疾患を抱えた方や社会的な事情を考慮しながら治療を進める必要があるケースも少なくありません。標準的な治療をそのまま適用するのではなく、体への負担(侵襲)を調整したり、細やかな配慮を加えたりすることが求められます。こうした「応用問題」に対応するためには、豊富な経験と知識が不可欠です。

肝臓がんをはじめとする消化器疾患治療
当科に初診で受診される方の主な症状には、乳房のしこり、足の静脈瘤、お腹や足の付け根にできるヘルニアなどがあります。消化器系の疾患では、お腹の痛み、便に血が混じる、便通の異常といった症状で来院されることもありますが、多くの場合、まず消化器内科で診察を受け、必要に応じて外科に紹介される流れとなっています。
私が担当する肝臓の疾患に関しても、基本的には内科からの紹介で治療を行います。そのため、内科との連携は非常に重要で、毎週消化器内科、外科、放射線科、病理診断科が集まり合同カンファレンスを実施し、患者さん一人ひとりに対して最適な治療方針を検討しています。
肝臓の疾患の中では、肝臓がんの治療が主な対象となります。現在の肝臓がんの手術件数は年間10例程度と限られていますが、当院は1980年代から肝切除を行い、長年にわたり実績を積み重ねてきました。近年では、ナビゲーションシステムや最新の医療機器を活用した手術が進んでいますが、当院ではこれまでの豊富な経験をもとに、安全性を最優先とした手術を行うことを重視しています。 当院の肝胆膵外科領域において最も多く対応している疾患は胆のう炎です。とりわけ急性胆のう炎は迅速な診断と重症度および患者全身状態を考慮して適切な治療が求められ、臨機応変な対応が重要となります。 当院では患者さんに最善な治療を行うよう心がけています。
長期的に病気と向き合うことが大切
肝臓がんは、膵臓がんとは異なり、根治を目的とした手術が難しい疾患です。多くの場合、慢性肝炎や肝硬変といった基礎疾患が背景にあり、一度手術でがんを取り除いたとしても、新たながんが発生する可能性が高いことが特徴です。そのため、「がんを完全に治す」というよりも、「がんとうまく付き合いながら、適切な治療を続ける」ことが大切です。
肝臓がんの治療では手術だけでなく、薬物療法や放射線治療、カテーテルを使った治療(TACEなど)など、患者さんの病状に応じて様々な治療法を適宜選択し、長期的に病気と向き合っていきます。適切なタイミングで適切な治療を行うことで患者さんの寿命を延ばし、生活の質を維持することを目指しています。

適切な治療を継続し、肝不全を防ぐ
手術後のフォローアップについては、外科と内科の両方で診察を継続していきます。もともと慢性肝炎がある患者さんが多いため、がんの再発リスクを考慮した上で、内科と協力しながら長期的に経過を見守ります。手術後は定期的に検査を行い、新たながんが発生していないかを確認していくことが重要です。
肝臓がんの再発は、肝臓の中に新たながんができる「肝内再発」が中心です。他のがんのように遠くの臓器に転移することもありますが、最も注意すべきなのは肝臓内での再発です。がんが再び増えていくと、最終的には肝不全に至ることがあるため、術後の継続的なフォローが不可欠です。定期的な検査と適切な治療を組み合わせながら、できるだけ長く病気と付き合っていけるようサポートしていきます。
治療とともに生活習慣の改善も重要
肝臓は鍛えることはできませんが、いたわることが重要です。具体的には、アルコールを控える、食べ過ぎを避ける、カロリーを摂りすぎないといった生活習慣の改善が肝臓の健康を守る基本になります。肥満やメタボリックシンドロームは脂肪肝の原因となり、進行すると肝炎や肝硬変につながることもあります。そのため、適切な食事管理と運動を心がけることが大切です。
肝炎にはウイルス性肝炎(B型・C型など)や、生活習慣による肝障害(アルコール性や脂肪肝によるもの)があります。ウイルス性肝炎の場合は、母子感染や輸血などを通じて感染するケースもあり、定期的な検査で早期発見・早期治療を行うことが大切です。
川崎地域の患者さんの特徴としては、ウイルス性肝炎に加え、アルコールや他の肝障害のリスク要因が重なっているケースが比較的多い印象があります。そのため、診断や治療においては、単に肝炎の治療を行うだけでなく、生活習慣の改善や合併症の管理も重要なポイントとなります。

地域のかかりつけ医の先生方へ
当院では幅広い診療科に専門医が揃っており、多くの疾患に対応可能です。ただし、血管に関連する救急疾患や非常に小さなお子さんの診療については、専門医の常勤医が不在のため対応が難しい状況です。これらの疾患については適切な医療機関へご紹介をすることもありますので、ご理解いただけますと幸いです。
一方で、消化器外科を中心に、腹部の疾患には幅広く対応しております。腹痛や消化器系の緊急疾患に関しては、可能な限り迅速に診療を行っています。手術室のキャパシティの問題がありますが、麻酔科と連携しながら、できる限り速やかに手術を行える体制を整えています。
消化器系の疾患については、診断や治療のご相談にも対応しておりますので、腹痛やその他の消化器疾患の患者さんについては、お気軽にご紹介いただければと思います。地域の医療機関と密に連携しながら、最適な医療を提供できるよう努めてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

清水 壮一
副院長
- 1986年 慶應義塾大学医学部外科学教室入局
- 1997年~ 日本鋼管病院 外科
- 2005年 内視鏡室 部長
- 2008年 中央検査科 部長
- 2013年 日本鋼管病院 外科部長、消化器・肝臓病副センター長
- 2021年 日本鋼管病院 副院長、消化器病センター長
- 一般消化器外科
- 肝胆膵外科
- 内視鏡外科
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医
- 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
- 身体障害者福祉法15条指定医(ぼうこう又は直腸機能障害、肝臓機能障害)
- 難病指定医