ドクターインタビュー

DOCTOR INTERVIEW

感覚の不調を見逃さず、
暮らしの質を守る医療を

耳鼻咽喉科

貫野 彩子部長

KANNO AYAKO

幅広く支える耳鼻咽喉科診療

当科では、耳・鼻・喉にとどまらず、頸部(くび)や感覚器なども対象とし、お子さんからご高齢の方まで、幅広い世代の診療を行っています。対応する疾患は、中耳炎、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、難聴、めまい、さらには良性・悪性腫瘍まで多岐にわたり、都市部・川崎において地域の皆さまの「かかりつけ医」としての役割を担っています。

耳鼻咽喉科は、感覚器に関わる「生活の質(QOL)」と深く関係する診療科です。聞こえやにおい、味、バランス感覚の低下は、日々の暮らしに直結する症状でありながら、なかなか気づかれにくく、受診が遅れることも少なくありません。そのような患者さんがどこに相談すればいいのかわからないと迷われたとき、気軽に相談できる場所でありたいと考えています。

外来診療は平日を中心に毎日実施しており、急な症状や不安にも速やかに対応できるよう、常勤・非常勤を含めた複数名の医師体制を整えています。地域のクリニックや開業医の先生方との連携も大切にし、必要に応じて処置や検査を迅速に行える体制をとっています。これからも、地域の皆さまにとって「近くで安心して相談できる耳鼻咽喉科」であり続けられるよう努めてまいります。

地域の特性を見据えた診療対応

当科では、アレルギー性鼻炎、難聴、めまいなど、日常生活に密接に関わる症状を幅広く診ています。とりわけ20〜40代の働き盛りの方の受診が多く、「忙しさから症状を我慢していた」という声もよく伺います。そうした不調を放置せず、早めに対応することが生活の質の維持に繋がるよう、丁寧な問診と診療を心がけています。

川崎という地域は、工場や交通量の多いエリアを抱えており、環境要因の影響と考えられるアレルギー性鼻炎の患者さんが比較的多く見られます。また、高齢の患者さんにおいては、医学的には手術が適応となる症例でも、「年齢的に手術は避けたい」とご希望されることも多く、患者さんの気持ちに寄り添った柔軟な診療が求められます。

小児の患者さんについても、中耳炎やアレルギー症状をはじめとした耳鼻科疾患への対応に力を入れています。特に中耳炎などで耳の中に水がたまる滲出性中耳炎があると、聴力の発達が遅れてしまったり、学習に影響することもあるため注意が必要です。川崎市では小学校6年生まで医療費の助成があり、保護者の方にとっても通院しやすい環境が整っています。当科でも水曜日の午後に小児外来を設けており、お子さんの学習や発達に影響を及ぼさないよう、早期発見・早期対応に努めています。

聞こえの不安に寄り添う補聴器外来

高齢化が進む中で、「聞こえにくさ」は生活の質を左右する大きな要素となっています。最近では、難聴が認知症のリスク因子として注目されており、聞こえにくさによって人との会話が減ったり、外出の機会が減ったりすることで、認知機能が低下しやすくなるとされています。耳鼻咽喉科として、そうしたリスクを少しでも軽減するため、当院では補聴器の使用を積極的に支援しています。

具体的には、聴力に合わせた補聴器を2か月程度試用いただけるお試し期間を設け、日常生活で実際に使ってみて、使用感や生活の変化を確かめていただいています。川崎市には補助制度がないため費用面のご不安もあるかと思いますが、それでも「聞こえること」が生活の安心や楽しみに直結することは多く、ご本人やご家族とよく話し合いながら進めるようにしています。

難聴のサインとしては、ご家族と同居している場合は「テレビの音が大きくなった」「会話の聞き返しが増えた」「自室で過ごすことが多くなった」といった変化から気づかれることが多いです。一方で、一人暮らしの方では「電話やインターホンに気づかない」「来訪者の声に反応できない」など、日常生活の中で見落とされがちなサインもあります。また、「子どもとの会話は問題ないのに、夫との会話が噛み合わない」といったご相談もよくあります。年齢とともに低音が聞き取りづらくなる傾向があり、家庭内での小さな変化が受診のきっかけになることもあります。

地域の窓口として丁寧な診療を届ける

当科には、紹介患者さんもいらっしゃいますが、実際には口コミや近所の方からの情報などをきっかけに、直接受診される患者さんのほうが多い印象です。とりわけ鼻づまりやアレルギー性鼻炎、耳の違和感など、身近な症状で「まず相談してみよう」と受診される方が多く、地域の中で気軽に足を運べる耳鼻咽喉科としての役割を担っていると感じています。

一方で、近隣の開業医の先生方からのご紹介も非常に大切な診療ルートのひとつです。例えば、「処置や検査が必要」「繰り返し症状がある」「患者さんが強い不安を抱いている」といったケースでは、タイミングを逃さず当院へご紹介いただいています。そのような紹介患者さんには、当日中に必要な処置や検査を行えるように体制を整え、スムーズに診療の方向性が決まるよう努めています。また、地域連携の予約枠も設けておりますので、ご活用いただくことで、待ち時間なく患者さんをご案内することが可能です。

私たちが目指すのは、地域の中で完結できる医療です。わざわざ遠方まで行かなくても、必要な治療が身近な病院で受けられる。そんな安心感のある診療体制を築くことが、地域医療の担い手としての使命だと考えています。これからも、患者さん一人ひとりに丁寧に向き合い、「こうかんクリニックの耳鼻咽喉科に来れば」と感じてもらえる耳鼻咽喉科を目指していきたいと考えています。

耳鼻咽喉科の奥深さに魅せられて

私が医師を志すようになったのは、高校時代に2年間アメリカで過ごした経験が大きく影響しています。父の仕事の都合で現地に滞在していた際、地域の清掃活動などのボランティアに参加する機会がありました。英語が第二言語の方や障がいを持つ方々と協力し合う中で、人と助け合いながら生きる社会の温かさに触れ、「人と関わる仕事がしたい」と感じたのです。もともと理系科目が得意だったこともあり、進路を考えるうちに、自然と医療の道に進むことを決めました。

その後、初期研修で複数の診療科を経験する中で、耳鼻咽喉科を回った際に、その奥深さに強く惹かれました。耳・鼻・喉・首に加え、聴覚・嗅覚・味覚・平衡感覚といった感覚器を扱うこの診療科では、内科的な治療と外科的手術の両方をバランスよく経験できます。さらに、子どもから高齢の方まで、幅広い世代の患者さんと関われる点も、自分が思い描いていた医師像に合っていると感じました。

子育てもキャリアも、無理なく続けられる場所

現在、私は3人の子どもを育てながら、日々の診療に携わっています。最初の出産は、耳鼻咽喉科医としてのキャリアのスタートと、育児の始まりがちょうど重なった時期でした。当時は、女性医師が子育てをしながら働くための支援体制が今ほど整っておらず、不安も大きかったのを覚えています。

それでも医師としてのキャリアを続けてこられたのは、職場全体の理解と支えがあったからです。当科では、急なお休みや予定外の対応が必要になった際も、チーム全体で柔軟にフォローし合える体制を整えています。誰か一人に負担が偏らないよう、一人の患者さんを皆で診ることを意識しながら、日頃から連携を大切にしています。

また耳鼻咽喉科は、自身の志向やライフステージに合わせて、診療スタイルを比較的柔軟に調整しやすいことが魅力のひとつです。私自身、研修医の頃は「バリバリと手術をする医師になりたい」という願望がありましたが、家庭との両立を考える中で、現在は外来診療や主に良性疾患の手術を中心とする働き方を選んでいます。それでも医師としてのやりがいや充実感を持ち続けられるのは、この診療科の幅広さと自由度の高さがあるからこそだと感じています。

支え合い、高め合えるチームとともに

耳鼻咽喉科では、手術を通じて専門性の高い医療に取り組むこともできますし、外来中心の診療で患者さんの生活に寄り添ったサポートを行うこともできます。実際に当科でも、診療スタイルや担当領域は一人ひとりの強みや希望に応じて柔軟に調整しており、「こうあるべき」といった決まりは設けていません。

また当院では、一人で黙々と診療するのではなく、「この症例、どう思う?」「こうしたらもっと良くなるかもしれない」といった声かけを自然に交わせる雰囲気を大切にしています。チームで診療にあたることが、患者さんにとっても、働く私たち自身にとっても、安心できる診療のかたちになると考えているからです。

医師としてのキャリアを積みながら、自分らしい働き方を模索している方へ。耳鼻咽喉科の持つ幅広さと奥深さ、そして当院の温かなチームの空気を、ぜひ一緒に体験していただけたら嬉しく思います。

貫野 彩子

こうかんクリニック副院長 耳鼻咽喉科部長

経歴
  • 神奈川県出身
  • 2004年3月 慶應義塾大学医学部 卒業
  • 2004年4月 静岡赤十字病院 初期臨床研修
  • 2006年4月 慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科
  • 2007年4月 川崎市立川崎病院 耳鼻咽喉科
  • 2008年4月 慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科
  • 2009年4月 稲城市立病院 耳鼻咽喉科
  • 2018年4月 日本鋼管病院 耳鼻咽喉科
  • 2019年4月 日本鋼管病院 耳鼻咽喉科 部長
  • 2025年4月 こうかんクリニック副院長
専門分野
  • 耳鼻科一般
  • 聴覚耳科
資格
  • 日本耳鼻咽喉科学会専門医
  • 日本耳鼻咽喉科学会補聴器認定医
  • 日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医
  • 医学博士
  • 耳鼻咽喉科専門研修指導医
  • 身体障害者福祉法15条指定医 (聴覚障害、平衡機能障害、音声・言語機能障害、そしゃく機能障害)
  • 難病指定医