診療科案内
現在、外科の分野では二極化が進んでいます。一つは腹腔鏡などの内視鏡を用いたminimally invasive surgeryの進歩・普及であり、もう一つは難治性癌に対する治療成績向上への挑戦です。当科ではこの二つの分野において、地域の医療に貢献できるよう努力しています。
治療している臓器は一般外科としては、甲状腺・乳腺・末梢血管を、消化器外科としては、食道・胃・十二指腸・ 肝・胆・膵・脾臓・小腸・大腸・肛門です。疾患としては大部分が悪性疾患となっています。
minimally invasive surgeryでは、腹腔鏡による胆嚢摘出術は勿論のこと、胃や大腸への応用を行っており、悪性疾患にも適応を広げています。肝胆膵の分野では、治療の難しい胆道・膵臓癌に対し治療成績向上を目指して、血管合併切除や広汎なリンパ節郭清を伴う根治術を施行しています。一方、乳癌に対する乳房温存手術や縮小手術なども行っています。
胃
日本における胃癌による死亡率は年々低下していますが、悪性新生物(癌や肉腫など)の中では肺癌に次いで男性第2位、女性4位(2018年現在)であり、罹患率(病気になる割合)はそれほど低下しておらず、依然として上部消化管の疾患の中で主な治療の対象となる病気です。
胃癌の中でもあまり大きくない早期癌に対しては、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡による治療が可能で、当院では主として内科で行っています。
内視鏡治療の対象外となる早期癌や筋層以上に進んだ進行癌では手術による治療が必要になります。当科では日本胃癌学会によって作成された胃癌治療ガイドラインにのっとり、進行度に応じた治療法を選択しています。特に早期癌に対しては低侵襲な腹腔鏡手術を積極的 に施行しています。
治療に当たってはご本人とご家族に病状および治療法について、充分に説明を行い同意をいただく(インフォームド コンセント)ようにしています。
胃癌が再発したときや高度に進行して手術の適応でない場合は、抗癌剤による治療が主体となります。
奏功率が高いTS-1を中心とし胃癌の組織型に応じてシスプラチン・イリノテカン・パクリタキセルなどの薬を組み合わせて治療を行いますが、化学療法室を設置していますので外来での通院治療も可能です。
肝・胆・膵
肝・胆・膵領域の悪性腫瘍に対しては、積極的な切除を基本方針にしています。
肝臓
当院併設の消化器病センターを通じて内科・放射線科と密な連絡を取り、ラジオ波・エタノール注入・肝動脈塞栓療法などの手術以外の治療も施行しており、患者さんの病態に最も適した治療法を選択しています。
胆道
胆道癌には肝門部胆管癌・胆管癌・胆嚢癌・乳頭部癌などの多くの疾患が含まれます。
肝切除術・膵頭十二指腸切除術などは侵襲の大きい手術が必要となります。 患者さんの体力が許せば、進行胆道癌に対しては肝膵同時切除も行なっています。過去の症例の5年生存率は45%でした。
良性疾患の胆石症には、腹腔鏡手術 を標準術式としています。 腹腔鏡手術の適応は広がっており、肝嚢胞ドーム切除・膵生検などにも腹腔鏡手術を施行しています。
急性胆嚢炎には早期手術を原則とし、可能なものには腹腔 鏡手術を施行しています。更に一カ所の小さな傷だけで行う単孔式腹腔鏡下手術(SILS:Single Incision Laparoscopic Surgery)も導入し、 低侵襲で美容的にも優れた治療を心掛けています。
総胆管結石例には、内視鏡治療(経乳頭的結石除去)による採石の後に、腹腔鏡下胆嚢摘出術を行っています。開腹が必要な例には、従来のTチューブに代わり経肝的外瘻チューブやCチューブを用い入院期間の短縮を図っています。
大腸・肛門
大腸癌は結腸癌と直腸癌に分けています。
結腸癌に対しては、 EMR(内視鏡的粘膜切除術)、ポリペクトミーや腹腔鏡補助下結腸切除術を積極的に施行しています。 その結果手術が必要な場合は、癌深達度sm(粘膜下層)までの症例には腹腔鏡による手術を、pm(筋層)に達している例には、リンパ節郭清のために開腹手術を施行しています。
直腸癌に対しても腹腔鏡下の手術が増加しており、肛門を可及的に温存する手術を行っています。
痔核や痔瘻などの肛門疾患に対しても広く診療治療を行っており、痔核の手術は全身麻酔ではなく、腰椎麻酔で手術をします。
また、大腸肛門を専門とする田村外科病院(川崎市幸区)院長の田村哲郎先生に外来診療をご担当いただいています。
〈 主な検査と治療 〉
大腸内視鏡検査 | 検査自体は5~10分で終わります |
---|---|
内視鏡下腫瘍切除 | ポリープ・線腫・早期癌を対象とし、ポリペクトミー・EMRを施行します。 病理診断を十分に検討し、その後の方針を決めて行きます。 |
手術 | 主に結腸癌や直腸癌の手術を行っています。 結腸癌:積極的に腹腔鏡下手術を行うようにしています。 下部直腸癌:自律神経温存・自然肛門温存術式などにより、できるだけ排便・排尿・性機能を損なわないよう工夫しています。 今後は放射線化学療法の導入を予定しています。 |
他の手術・治療 | 痔核・痔瘻・肛門周囲膿瘍・直腸脱・肛門ポリープの手術 も行います。 なるべく短期の入院(4~5日)にて行っています。 |
乳腺
最近、日本でも乳がんは増加傾向の一途をたどり、2000年頃より女性のがんの中では罹患率1位となっていますが、その死亡率は5位です。これは乳癌の性質にもよりますが、乳房が体表臓器であるため早期発見・早期治療が可能であるからといわれています。大多数の乳がんの症例には、乳房温存手術を適用する割合が多くなっています。
腫瘍が大きい場合や、転移を認める症例にはNeo Adjuvant Chemotherapyを行っています。
血管
こうかんクリニックにて血管外科外来を開設しています。
閉塞性動脈硬化症・腹部大動脈瘤等の動脈性疾患から下肢静脈瘤・深部静脈血栓症等の静脈性疾患まで、幅広く血管疾患を扱っています。外科的治療が必要な場合は、慶應義塾大学病院および川崎市立川崎病院にて治療を施行しております。
腹部大動脈瘤に対するステントグラフトや、閉塞性動脈硬化症に対する血管内治療も積極的に導入しています。
下肢静脈瘤に対する手術(ストリッピング)は、身体の負担の少ない局所麻酔で当院にて施行しており、硬化療法は外来で行っております。下肢静脈瘤の治療は、クリニカルパスを用い3泊4日の入院手術治療で行っています。
鼠径ヘルニア その他
鼠径ヘルニア・急性虫垂炎等の手術は、全身麻酔ではなく腰椎麻酔という下半身を麻酔する麻酔法で手術をします。
消化器外科の手術の中では比較的小規模な手術となります。
鼠径ヘルニアはメッシュを使用する術式を標準術式としており、3泊4日の入院で行っています。