十字靭帯(ACL)再建術について
膝関節の構造
膝には上記のように4本の靭帯と2つの半月板があります。
骨と骨をつなぐゴムのバンドのようなものと考えて下さい。
(半月板はクッションのような働きをします)
膝前十字靭帯の役割
大腿骨(太ももの骨)に対して脛骨(すねの骨)が前方に脱臼するのを防いでいます。
靭帯に加わる力が非常に大きいと、靭帯はその力に耐えきれずに切れてしまいます。
これが「膝前十字靭帯損傷」です。
膝関節鏡で見たACLの状態
写真左は正常な前十字靱帯、写真右は損傷後約6ケ月放置していた前十字靱帯。
膝前十字靭帯損傷とは
前十字靭帯損傷はスポーツ外傷の中でも頻度の多い外傷で、「バスケットボール」「サッカー」「スキー」「バレーボール」「ハンドボール」などでの損傷が多く、「ジャンプ着地時」「急激なターン」「カットイン」などの切り返し動作や不意な外力によって損傷することがほとんどです。
前十字靭帯損傷時、多くの場合「プチッ」「グキッ」などの異音がすると言われており、音と同時にかなりの痛みを感じます。
症状としては関節内に出血が起こるため、数時間で大きく腫れます。
損傷直後の痛みは足を着くことが出来ないほどではないことも多く、歩き始めた際に膝の不安定感を感じ、時折膝崩れを起こすこともあります。
前十字靭帯は関節内にある靭帯であり、血流が乏しいということもあり、自然治癒は困難であると言われています。
また、これを放置すると膝の亜脱臼を起こすようになり、スポーツ活動の継続が困難になります。
無理に継続すると、半月板や軟骨等を傷つけてしまい二次的な障害を起こす原因ともなります。
膝前十字靭帯損傷の診断と治療
問診では、『怪我をした原因』『自覚症状としての膝不安定感』『膝崩れ(giving way)の有無』を確認し、その後、徒手によるテストを行います。
多くの場合レントゲンをとりますがレントゲンには骨しか写りませんので「靭帯損傷」や「半月板損傷」の疑いがある場合は、MRI(下の写真)の撮影を行い確認します。
また、膝関節の腫れの原因が血液である場合は70~80%が前十字靭帯損傷だとも言われます。
膝前十字靭帯損傷が認められた場合、「現在の膝の状態」「主治医の見解」を説明し、ご本人のニーズを交えながら治療方針を決定します。
MRIによる画像診断
保存療法
保存療法では、主として膝周囲の筋力強化方法と安全な膝の使い方の指導が中心になります。
しかしながら、当センターでは保存療法は不確実であり、一般的には薦めていないのが現状です。
ただし、「スポーツを行わない方」や「仕事の都合で長期休暇が得られない方」「高齢の方」等には、例外的に保存療法を選択することもあります。
手術療法(前十字靱帯再建術)
手術には様々な方法がありますが、当センターでは自分の半腱様筋腱を用いた解剖学的2重束前十字靭帯再建術を行っています。
前十字靭帯再建術の特徴と方法
当センターでは、半腱様筋腱(自分の膝の内側にある腱)を使用した内視鏡下手術を行っています。
以下が手術の流れです。
- 手術は膝関節を大きく開かずに内視鏡(関節鏡)を用いて行われます。
そのため、外見上(皮膚)の傷は小さいもので済みます。 - 「自家腱」といって、自分の身体の一部の腱を取り、前十字靭帯の付着部である脛骨(すねの骨)と大腿骨(太ももの骨)にトンネルを掘り、その中に腱を通し、両端を金属などで固定します。
自分の靭帯を使うため拒絶反応はおこりません。 - 移植する腱は、太ももの裏の内側にある半腱様筋腱や、稀ではありますが、薄筋腱(半腱様筋腱が細い場合)を追加して用います。
他にも膝の前にある膝蓋腱という腱を使用する方法もあります。
すねの内側から自分の腱を採取
移植するための腱を作成
前十字靭帯再建術(解剖学的二重束再建)のメリットとデメリット
メリット
- 内視鏡を使用するため、傷口が比較的小さく、手術によるダメージが少なくて済む。
- 本来、前十字靭帯は前内側線維と後外側線維束という2つの線維束からできており、再建時にはそれを模倣して、より正常に近い形での再建術を行うことが可能。
- ACL損傷を放置することにより「半月板損傷」や後の「二次的変形性膝関節症」を引き起こす可能性が高いが、再建術により膝の前方不安定性を再獲得し、半月板損傷のリスクを減らすことができる。
術後の傷口の写真
デメリット
- 初期の固定力が比較的弱く、骨と腱の癒合に時間がかかる。
- 半腱様筋腱採取により膝を深く曲げる力(膝屈曲力)が若干低下する。
- 術後、スポーツ復帰までには約7〜8ヶ月を要する(個人差があります)。
手術直後の再建靭帯
約1年後再鏡視時の再建靭帯