野球肘のリハビリ
軽症で、発症の原因が投げ過ぎによるものであれば、投球を禁止することで経過とともに一時的な痛みはほとんど改善します。しかし、再発を防ぐためには、投球禁止期間中に投球動作に焦点を当てたリハビリテーションが不可欠です。投球動作は全身を使った運動であり、肘だけでなく、股関節や体幹、肩周りの柔軟性や安定性も重要です。
例えば、股関節や体幹周囲が硬く、動きが悪い場合、それが原因で肩や肘に余分な負担がかかりやすくなります。そのような投球動作を繰り返すことで、特定の部位に過度な負担がかかり、野球肘を引き起こすことがあります。肘の曲げ伸ばしに制限がある場合は、肘周りの筋肉をストレッチやマッサージでケアするリハビリテーションが必要です。投球を禁止して痛みが改善したとしても、投球動作に問題が残っている場合、再発のリスクが高いため、リハビリテーションを通じて全身の機能を改善することが重要です。
簡単にできる野球肘に関するセルフチェック
①肘の屈伸
野球肘になると肘の曲げ伸ばしに制限をきたすことがあります。左右差がないかチェックしましょう。
②肩の後ろの筋肉の硬さ
指先から肘までをくっつけたまま腕を上げ、肘が鼻より高く上がるかをチェックします。
繰り返しの投球により肩の後ろ側の筋肉が硬くなると腕が上がりにくくなり、投球時に肘が下がりやすくなるので注意が必要です。

③親指と小指の対立
親指と小指をくっつけて一直線になるかをチェックします。
人差し指、中指、薬指は曲がらないように注意してください。
この動きがうまくできないと正しくボールが握れないので肘の周りの筋肉に負荷がかかりすぎてしまいます。

④ブリッジ
股関節〜体幹周りの柔軟性や安定性があるかどうかをチェックしています。
綺麗なトップポジションを作るために必要な動きです。

⑤胸郭の回旋
横向きになり写真のように身体を捻り肩甲骨が床までつくかチェックします。
投球に重要な捻転差を生み出すために重要な柔軟性であり、左右差を生じやすいです。

⑥開脚
膝を伸ばしたまま足を開き、前屈し肘が床までつくかチェックします。
ももの裏が硬いと骨盤を立てられず背中が丸まり後方重心になりやすいです。

⑦もも前の筋肉の硬さ
写真のように足を掴んだ姿勢を保持できるかチェックします。
ももの前の筋肉が硬いとトップポジションでうまく胸を張れなくなります。

⑧しゃがみ込み
膝・つま先をくっつけ、かかとを浮かさずにしゃがめるかをチェックします。
足首が硬いとすねを前に倒せないので重心を前に乗せにくくなります。

⑨片脚立ち
身体を伸ばし片脚立ちが保持できるかをチェックします。
正しい投球フォームで投げるにはまず片脚でしっかりと立てることが必要になります。

野球肘のリハビリテーション・ストレッチ
ストレッチの注意点
- 痛みがあるところまで無理して伸ばさないようにしてください。
- 1回につき30-60秒ほどかけてゆっくり行ってください。
- 息を止めないようにしてください。
①前腕のストレッチ
投球動作はトップポジションからリリースにかけて肘→前腕→手首→指と連動して動きます。そのため前腕の筋肉が硬くなり肘の痛みにつながります。
方法:四つ這いで指を自分の方へ向けて床につけます。
余裕がある場合は体重を後ろにかけていき
手首を倒す角度を大きくします。

②肩の後ろ〜脇の下のストレッチ
投球動作の繰り返しにより肩の後ろから脇の下にかけての筋肉が硬くなると、肩が上がりにくくなり肘が下がりやすくなります。またリリースからフォロースルーにかけて肩の前側への負担もかかりやすくなります。
方法:四つ這いから手のひらを上へ向けて前に出し体重を後ろへかけていき肩の後ろ〜脇の下を伸ばします。

③胸郭、肩甲骨周りのストレッチ
投球動作は胸郭を中心とした回旋動作になるので胸郭周りが硬いと肩や肘にかかる負担が大きくなります。また右投右打(左投左打)では右から左(左から右)への回旋動作が多く左右差を生じやすくなります。
方法:横向きで上側の足を90度曲げて下側の手で抑えます。
上側の手は頭の後ろに当て、身体を後ろへ捻ります。
次に上側の肘を上側の膝に近づけるように身体を捻ります。
この動きを繰り返します。

④ももの裏のストレッチ
ももの裏が硬いと骨盤を立てることができず、重心移動時に後方重心となり猫背になります。そうすると肘も下がりやすくなり肩や肘への負担がかかりやすくなります。またももの裏が硬く前屈ができないとフォロースルーにて最後まで腕を振り切りにくくなります。
方法①:座布団やクッションの上に座り開脚し骨盤を立てて胸を張ったまま前屈します。
骨盤を立てられない人は写真のように膝を曲げて行います。

方法②:伸ばしたい足を台などの上に乗せ、反対の手をつま先へ向けて伸ばします。
膝は軽く曲げ、背中が丸まらないようにします。

⑤ももの前のストレッチ
軸足のももの前が硬いと片脚で立った際に後方重心となり猫背になります。またトップポジションにてももの前が硬く股関節が伸ばせないと十分に胸を張れないので肩や肘への負担がかかりやすくなります。
方法①:足を前後に開き前足を立て、腰を落としていきももの前を伸ばします。
また両手を頭の上で組み前に出した足の方向へ倒します。
(左足が前なら左側)

方法②:横向きで下側の足を曲げ下側の手で抑えます。
上側の足首をつかみ膝を曲げます。
骨盤が後ろへ倒れないように注意します。

⑥お尻のストレッチ
お尻が硬いとフォロースルーで腕を振り切りにくくなり、肩や肘への負担がかかりやすくなります。
方法:足を前後に開き前の膝を90°に曲げ、体幹をまっすぐ立て前側のお尻を伸ばします。
余裕があればお尻を伸ばしている足と反対側の手を前へ伸ばし肩の後ろも一緒に伸ばします。