整形外科

野球肘の治療について

野球肘の治療について

野球肘とは投球動作により生じる肘関節痛の総称です。
痛みの部位により内側障害、外側障害、後方障害に分けることができます。

内側上顆裂離

ピッチャー(投手)をしている小中学生によく起こり、リトルリーグエルボーとも言われる症状です。
投球フォームが正しくなかったり、柔軟性の低下が原因で、肘(ひじ)の内側が痛んだり、肘の運動障害症状が出現します。
少年野球選手の約20%に発症しますが、1~2ヶ月間投球を禁止することで高率に回復します。

レントゲン検査により診断をすると、下記写真のように裂離(はがれた)した小骨片が認められます。
「投球フォームの改善」や「肘・肩・股関節・体幹のストレッチ」を中心としたリハビリによる治療を行います。

ただし急性に発症した場合、ギプスなどの固定を数週間行うこともあります。

肘内側側副靭帯損傷

過度に投球を繰り返すことにより肘の内側の靭帯が機能不全に陥った状態で、治療は「内側上顆裂離」と同様、通常はリハビリを行い回復を待ちます。
しかし、プロやトップレベルで競技をする選手がこの症状により投球不能になった場合、非投球側から長掌筋腱を採取して靭帯再建術を行います。
一般的にトミー・ジョン手術として知られている手術です。

手術後、約3ケ月でキャッチボールを開始し、約1年後の完全復帰を目標とします。

投球による肘部管症候群

肘内側部痛や、薬指・小指のしびれなどが主な症状です。

日常生活まで支障をきたすことは稀ですが、進行すると握力低下や感覚鈍麻(感覚が鈍くなる)が出現します。
30~40球投球すると症状が悪化し、それ以上投げられなくなる選手もいます。

治療は「ストレッチを中心としたリハビリ」や、「ステロイド注射」などが有効です。
これにより改善しない場合や重度の運動麻痺が出現している重症例は、手術療法の適応となります。

手術は尺骨神経を圧迫している靭帯や骨を切除します。

術後3ケ月で競技復帰することを目標とします。

肘内側部での尺骨神経の圧迫を解除します

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD)

外側傷害(肘の外側の障害)の代表的な疾患で少年野球選手の約2%に発症すると言われています。

原因ははっきりとは判っていませんが、血流障害や遺伝的要素が考えられており、投球動作が加わることにより病態を悪化させます。

11歳前後によく発症し、肘の外側の痛みや肘関節伸展障害(肘が伸びない)といった症状を認めます。
早期では、痛みや伸展障害などの症状が全く無く、野球検診などで偶然発見されることもあります。

レントゲン撮影により診断すると、下記写真のように骨の軟骨部分の不整像が認められます。
特別な撮影方法でないと見逃されることがありますので、整形外科専門医を受診して下さい。

治療は、早期に発見されれば6~12ヶ月間投球を禁止することにより高い確率で回復しますが、症状が進行してしまった場合は「関節ねずみ」となり手術が必要となります。

この「上腕骨小頭離断性骨軟骨炎」は早期発見が重要で、「肘の痛み」や「肘伸展障害」を自覚したら、必ず受診してレントゲン検査を受けて下さい。

また、痛みや伸展障害がなくても、早期発見のため「野球肘検診」などで超音波(エコー)検査を定期的に受けることをお勧めします。

腱側
投球側
3D-CT

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に対する骨軟骨移植 (mosaic plasty)

膝から採取した骨軟骨柱(約20mm)を移植する手術を行います。

手術後、約3ケ月でキャッチボール開始し、約6ケ月で完全復帰を目標とします。

肘頭骨端線離解、肘頭疲労骨折

後方障害(肘の後ろ側に起きる障害)で、前者は骨端線(成長軟骨)の閉鎖する前の若年者にみられ、後者は骨端線が閉鎖した後の成人にみられます。
前者はギプスで固定することにより高い確率で改善しますが、後者は治療に長期間かかるため、手術が必要になります。
手術は肘後方よりスクリューを挿入して固定します。手術後約2~3ヶ月が復帰目標です

有鉤骨鉤骨折

バッティング時に自覚する症状で、ファールチップなどで生じる瞬間的な要因と、スイングのしすぎによる疲労骨折など継続的な要因があります。
右打者の場合、左の手のひらのバットのグリップエンドが当たる部位に痛みが生じます(左打者の場合は右手)。

レントゲンやCT検査をもとに診断しますが、痛みが長く続く場合や早期に復帰希望の場合、骨片を摘出する手術を行います。