DOCTOR INTERVIEW

外科 / 消化器病センター
柳 在勲部長
JAEHOON RYU
地元・川崎で育ち、再びこの地へ戻るまで
私は川崎市川崎区で生まれ育ちました。中学校や高校も川崎市内で、大学進学まではすべての時間をこの地で過ごしています。幼いころには当院を受診したこともあり、こうして再びこの地で診療に携われることに、特別なご縁を感じています。
大学進学の際、ちょうど両親が韓国に戻ることになり、悩んだ末に韓国・ソウル大学への進学を決意しました。韓国語があまり話せなかった私にとって、現地での生活や学びは決して容易ではありませんでしたが、多文化の中で医療を学んだ経験は、自身の視野を大きく広げてくれました。医師免許取得後は現地での就職も考えましたが、やはり「日本で医師として働きたい」という思いが強くなり、日本の国家試験を受け直しました。
帰国後は、慶應義塾大学病院の外科を見学したご縁から、そのまま入局させていただくことになり、以降は消化器外科を専門に診療にあたってきました。そしてこの度、研修医時代に一度勤務した当院に、およそ25年ぶりに戻ってまいりました。病棟の構造は当時と大きくは変わっていませんが、現在はより広がりのある地域連携や診療体制が整備されており、地元・川崎の医療に改めて貢献できることに、大きなやりがいを感じています。

外科医としてがんと向き合う姿勢
消化器外科では、がん治療が診療の中心を占めています。もちろん、当院では良性疾患への対応も行っていますが、私たちが日々向き合うのは「がんと診断された患者さんが、これからどう歩んでいくか」という重みある選択の連続です。
患者さんの多くは、内科で「がんの疑いがある」と診断されてから、外科を紹介されていらっしゃいます。その段階では、がんの性質やステージなど、詳細な情報を知らされていないことも少なくありません。「ステージって何のことかわからなかった」「転移がないと言われただけだった」といった声もよく耳にします。私たちは、そのような患者さんの「知らないことが不安」な状態に寄り添うことから診療を始めています。
とくに初診時や検査後、手術前の面談では、患者さんに病気の全体像を丁寧にご説明します。がんの種類や進行度、治療の選択肢、手術の意義、そして予後まで全てを一度に理解していただくのは難しいかもしれません。ご高齢の方の場合、医学的な用語や選択肢はさらにわかりづらくなります。それでも、私たちが一生懸命に向き合い、真剣に説明しようとする姿勢を通じて、信頼関係が生まれると信じています。
かつて、がんの治療といえば外科的な手術が唯一の選択肢で、たとえ手術ができなくても、外科医が最後まで診ていくのが当たり前でした。今では化学療法や緩和ケアなど、治療の幅が広がり、内科の領域と連携しながら診ていくことも一般的になりました。それでも私は、患者さん一人ひとりを「最初から最後まで診る」気持ちを大切にしています。

腹腔鏡手術の経験を活かし、低侵襲な治療を実施
外科の役割として、いかに患者さんの負担を減らしながら、効果的な治療を行うかという視点は非常に重要です。当院では、患者さんの身体的な負担をできるだけ軽減できるよう、腹腔鏡による低侵襲手術を積極的に取り入れています。腹腔鏡手術は従来の開腹手術に比べて創部が小さく、術後の回復も早いため、日常生活への影響を抑えられるという大きなメリットがあります。
私自身、これまで20年以上消化器外科の現場で腹腔鏡手術を中心とした診療に携わってきました。とくに大腸や胆のうの疾患に対しては、可能な限り腹腔鏡による対応を行い、日常的にその技術を磨いてきたという自負があります。その経験を活かして、現在は当院の外科チームでも腹腔鏡手術の拡充を進めています。
将来的には、ロボット支援手術の導入も視野に入れています。術者の動きを精密に再現できるこの技術は、今後の選択肢のひとつとして期待されています。そのためにも、まずは腹腔鏡手術の実績を着実に積み重ねた上で、段階的に導入を検討していく方針です。体制整備や人員育成を含めた準備を進めながら、患者さんにとってより良い医療を提供できるよう取り組んでまいります。

見逃されがちな症状に向き合い、早期発見をめざして
私が診療にあたる中で感じるのは、定期的に健診を受ける習慣がまだまだ根付いておらず、「何となく不調があるけれど、もう少し様子を見よう」と受診を先延ばしにされる傾向があるということです。そのため、明らかな症状が出た頃には病気が進行していたというケースも少なくありません。がんをはじめとした消化器疾患では、早期発見・早期治療がその後の経過を大きく左右するだけに、私たち外科医にとっても判断の難しい局面に直面することがあります。
また、胆石や胆のう炎などの疾患も比較的多くみられます。これらの病気は、症状がはっきり出にくかったり、我慢できる程度の不快感で済んでしまうこともあるため、見逃されがちです。しかし、急性増悪を起こせば入院や緊急手術を要することもあり、決して軽視できるものではありません。だからこそ、少しでも気になる症状がある場合には、早めの受診が大切です。
私たち外科は、ただ手術を行うだけでなく、必要な検査を適切に行い、診断・治療の方針を速やかに決定することが求められます。それゆえに、地域の先生方との連携を通じて、より多くの方が早期の段階で必要な医療につながるような体制づくりが必要です。健診受診の重要性について地域の皆様へ啓発していくことも含め、病院として積極的に働きかけていく役割があると考えています。

検査と連携を通じて、地域に根ざす外科診療
当院では、地域の医療機関との連携を重視し、患者さんが必要な検査をスムーズに受けられる体制づくりに力を入れています。とりわけ大腸の内視鏡検査は、地域の医療機関では対応が難しいケースもあるため、私たち病院がその受け皿となることが重要だと考えています。そのために、地域の先生方が「検査をお願いしたい」と思われた際に、直接当院の地域連携室を通じてご予約いただける仕組みを整えています。
一般的には、大きな病院で検査を受ける場合、初診の受付から外来診察、検査の予約、検査の実施、結果説明、さらに元の医療機関への再受診と、複数のステップを踏む必要があります。しかし当院では、患者さんが当院の外来診療を経由することなく、「検査だけを受けて、そのまま元の医療機関で結果をお聞きいただける」体制を構築しています。これにより、無駄な通院や待ち時間が減り、患者さんにとっても、紹介元の先生方にとっても、より負担の少ない診療環境を提供できるよう努めています。
また、内視鏡検査に関しては、できる限り苦痛が少なく、安心して受けていただけるように工夫しています。内科や非常勤の先生方のご協力のもと、検査枠を毎日確保しており、予約の取りやすさにも配慮しています。「検査を受けたいけれどなかなか空きがない」「準備が大変そうで不安」といった声にも、柔軟に対応できる体制が整いつつあります。
このように、病院と地域の医療機関がそれぞれの役割を分担しながら、地域全体で医療を完結できる流れを築いていくことが、患者さんにとって最も望ましいかたちであると考えています。今後も、地域の先生方との信頼関係を大切にしながら、検査や治療がより円滑に行える仕組みをより強化していきたいと思います。
患者さんの意思を尊重し、最期まで寄り添う医療を
川崎地域にはご高齢の方も多く、年齢とともにがんをはじめとする疾患の発症も増えていきます。手術や抗がん剤といった治療の選択肢が複数ある中で、私がとくに大切にしているのは、患者さんご本人がどのように治療を受けたいか、その意志を尊重することです。
時にはご家族が「手術をしてほしい」「抗がん剤を受けてほしい」と強く望まれることもありますが、ご本人がそれを望んでいないのであれば、無理に治療を進めるべきではないと私は考えています。実際に、「抗がん剤はもうやりたくない」と仰る患者さんが、家族の意向に従って治療を始めた結果、却って苦しい時間を過ごされることもあります。そういったケースでは、治療が中止になったあと、「薬を使っていない今のほうが、ずっと楽に過ごせている」と語られることもあり、医師として深く考えさせられます。
マスコミなどでは「病気と最後まで闘い抜いた」という姿勢が美徳として取り上げられることが多いかもしれません。しかし、本当に幸せな最期とは何なのか――その答えは、患者さん一人ひとりの価値観の中にあると私は思っています。だからこそ、病気や治療内容について丁寧に説明した上で、治る見込みがあるのか、または、どのように最期を迎えたいのかを、患者さんご本人と一緒に考えていくことが重要だと考えています。
そして、治療を選ばなかった場合でも、私たちができることはたくさんあります。痛みを和らげ、安心して穏やかな時間を過ごせるよう支えることも、医療の本質的な役割のひとつです。外科医というと、「手術で治す」というイメージを持たれがちですが、私は、どんなときも患者さんの意思に寄り添い、その人らしい最期までを共に考え、支えていくことを使命として、日々の診療に取り組んでいます。


柳 在勲
外科部長・消化器病センター消化器外科部長
- 神奈川県出身
- 1996年 ソウル大学医学部 卒業
- 1998年 慶應義塾大学病院
- 2004-2024年9月 国立病院機構 埼玉病院
- 2020年 国立病院機構埼玉病院 外科部長
- 2024年10月 日本鋼管病院 外科部長
- 消化器外科一般
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 身体障害者福祉法15条指定医(ぼうこう又は直腸機能障害)