ドクターインタビュー

DOCTOR INTERVIEW

関節温存手術で早期社会復帰を目指す

整形外科 / スポーツ整形外科センター

石川 大樹副院長
スポーツ整形外科
センター長

HIROKI ISHIKAWA

膝や肩、肘などのスポーツ損傷を診療

スポーツ整形外科センターでは、主にスポーツが原因で起こる膝や肩、肘、足関節などの損傷を中心に診療にあたっています。一般整形外科と同様に骨折や捻挫なども診療しています。スポーツ整形の場合は、スポーツ障害や外傷に対しての専門的な知識と経験を用いて治療にあたる必要があります。 一般整形外科では例えばケガの場合、ケガをする前の「日常生活」に戻っていただくことを目標にしていますが、スポーツ整形外科の場合は、「日常生活」だけではなく、ケガをする前の状態の競技の場に、速やかに復帰できることを目標にしています。

運動内容や、種目による特有の外傷や障害などを考慮した上で、早期の回復と現場復帰を目標に、各種の競技種目やレベルに対応した治療を行っております。

縫合術は半月板を温存できることがメリット

私自身は、膝の疾患の治療を専門としており、その中でも膝の靭帯および半月板の損傷、膝蓋骨脱臼、変形性膝関節症などの治療を得意としています。半月板損傷に対する手術では、裂けてしまった半月板を縫い合わせる半月板縫合術を最重要課題と考えています。

半月板損傷の治療には、大きく分けて2つの術式があります。損傷部位を切り取る「半月板切除術(部分切除術)」、そして損傷して裂けてしまった半月板を縫い合わせる「半月板縫合術」と呼ばれる術式です。少し前までは、半月板切除術が主流でしたが、半月板を切除してしまうとクッションの役割がなくなってしまうことで、比較的早い時期に「変形性膝関節症」になってしまうというデメリットがあります。

半月板縫合術は、半月板を温存できることが大きなメリットです。以前ならば切除していたような損傷も、できるだけ縫合術によって治療しようとする取り組みが行われていて、当院でも、半月板を残せる場合は、できるだけ縫合(修復)を行うようにしています。

低侵襲で回復の早い関節鏡治療

半月板縫合術に関心を持って研究を始めてからは、来る日も来る日も、実験において半月板を切っては縫って、を繰り返しました。半月板という軟骨を切って縫ったら治る、ということは誰も思いもしない方法だった時代が長かったのですが、自分自身が顕微鏡での観察・研究を続けるうちに、どのような細胞が出てきて、どのような血管侵入があるのかなどが詳細にわかってきたのです。

半月板治療と同様に、関節鏡治療についても研究を重ねてきました。20世紀の整形外科医学において、関節鏡と人工関節が2大進歩と言われています。5ミリぐらいの小さな切開傷だけで治すことができる関節鏡治療に対して、非常に強い関心を抱きました。関節鏡視下半月板縫合術は、その当時の最先端治療でしたが、学会参加や英語の論文、教科書などを読み漁って独学で学びました。当時は関節鏡を実際に覗きながらの手術でしたが、現在では拡大された患部の画像をモニターで確認できる時代になり、ますます関節鏡治療が身近なものになってきたのです。

傷口が小さく、治癒が早いOutside-in縫合

半月板縫合術には3種類の縫合方法があります。関節内から針を半月板に貫通するインサイドアウト(Inside-out)法、関節外から針を関節内に入れるアウトサイドイン(Outside-in)法、関節内のみで手術を行うオールインサイド(All-inside)法という方法です。

一般的にはinside-out法が主流ですが、Inside-out法は神経の損傷を避けるために3センチ程度切開する必要があります。比較的簡単な縫合方法ですが傷が大きいことがデメリットです。そこで、Inside-out法と同じ針の通り道でOutside-in法も出来るだろうと考え、2ミリ程度の小さな切開部からガイドを入れ、そのガイド越しに後方の半月板を縫合できる「Outside-in法」を開発しました。傷口が小さいため比較的早く治癒することが大きなメリットです。

実際の手術では、半月板の断裂形態、部位、大きさなどによってこれらの縫合方法を単独、もしくは組み合わせて実施します。また、All-inside法は、半月板中節部・後節部の縫合に特に有効で、当院では半月板の損傷状況に合わせて、積極的に縫合術を行っています。

手先が器用なことがきっかけで外科医に

私が医師を目指したきっかけは二つあります。一つは、幼少期から物を切ったり貼ったりする工作が好きで、小学校高学年の授業で行うカエルやミミズの解剖に特に興味を持ったことです。生物の身体の中を観察できる解剖の授業の時間が面白く、割烹料理の板前だった父からの遺伝か、幼少期から手先が器用だったこともあって、外科医の道を考えるきっかけとなりました。もう一つのきっかけは、母親が白内障の手術をしたことです。今でこそ比較的簡単な手術かも知れませんが、当時は1週間もベッド上で絶対安静を強いられるような辛い治療のようでした。自分の母親のように辛い思いをしている患者さんを助けられる医者になりたいと考えるようになったのです。

外科か整形外科に進もうと考えていましたが、学生時代の実習で外科を回っているときに担当していた患者さんはがん患者さんが多く、自分が親身になって治療している患者さんが、力及ばず亡くなっていってしまうのを目の当たりにしていると切なくてたまらない気持ちになりました。一方で整形外科では、子供たちや学生の患者さんが元気に過ごしていて、ケガもみるみるうちに治っていく姿を見て、自分の一生の仕事として選択するには整形外科の方が合っているのだと思いました。本当は自分の手術で命を繋いでもらえるような治療をしたいという想いもありましたが、整形外科に進むことを決断しました。整形外科はダイナミックなところがあり、診療科の雰囲気にも惹かれました。

国内で多くの症例数を誇る、膝後十字靭帯手術

最近は、遠方の地域からも、先進医療を求めて当院を選択してくださる患者さんが増えています。先進医療の関係では、靭帯損傷の治療が当センターの中核となっています。膝前十字靭帯再建術、膝後十字靭帯再建術では、高度なダブルバンド手術やトリプルバンド手術という方法を取り入れており、特に後十字靭帯に関しては、国内でも屈指の症例実績があります。

私が入職する以前から当院はスポーツ整形外科で名高い病院でした。先代のセンター長が冬季オリンピックドクターを務めていたことや、古くからさまざまなアスリートの治療に携わってきた経験があることから、関係者の方からご紹介いただくことが多々あります。

一般の患者さんについては、当院が羽田空港に近いということもあり、八丈島や宮古島などの離島や北海道、海外からも飛行機を利用して来られる方も多くいらっしゃいます。私の外来診療は予約制ですが、初診の方でも電話予約が可能ですので、お問い合わせください。

AKOに対しても多くの実績

変形性膝関節症に関連して私が注力していることのひとつが、「高位脛骨骨切り術」という変形性膝関節症の手術治療です。すねの骨を切り、角度を変えて縫合する手術のことで、本人の関節を温存できるため、膝の曲げ伸ばしは手術前と同じようにできるなど、動きや運動に制限がないことがメリットです。

骨を切り、角度を変える手術のことをオステオトミー(Osteotomy)と言い、膝周囲骨切り術は Around the Knee Osteotomy:AKOと呼ばれます。このAKOの手術に関しても、当院は多くの実績があります。

地域の先生方には、アスリートやスポーツ愛好家の皆さんのスポーツ外傷だけではなく、日常生活で発生する整形外科疾患についても、気兼ねなく患者さんをご紹介いただければと思います。

可能な限り温存し、患者さんのQOLの向上を目指す

当センターとして近年注力している治療には「内側半月板後根断裂(medial meniscus posterior root tear:MMPRT)」と呼ばれる疾患対応があります。MMPRTとは、瞬間的に強い力がかかったときに、内側半月板が断裂してしまう疾患です。放っておくと膝関節の機能が低下してしまい、膝関節骨壊死や変形性膝関節症が進行した状態となる可能性があります。人工膝関節手術を余儀なくされることも多く、完治治療が困難とされています。

MMPRTの治療法としては従来、糸による縫合手術が中心でしたが、この方法では術後の日常生活による患部への負荷によって、糸が切れてしまうことがあるというデメリットがありました。そのためMMPRTに対しても、当院では前十字靱帯と同じように別の腱を移植する再建術を行っています。この再建術は、半月板に関する長い間の研究の中から私が開発した方法で、移植した後の半月板の再生が可能で、再建された半月板後根が正常半月板と同様に機能するというメリットがあります。

新しい術式や治療法を取り入れつつ、保存療法やリハビリテーションを通して患者さんのQOL(Quality Of Life:生活の質・生命の質)の向上や、アスリートの方の競技レベル復帰などに今後も貢献していきます。

石川 大樹

副院長・スポーツ整形外科センター長

経歴
  • 神奈川県出身
  • 1990年 昭和大学医学部 医学科 卒業
  • 同1990年 昭和大学医学部 整形外科学教室 入局
  • 同1990年 昭和大学 医学部 第一解剖学教室大学院 入学
  • 1995年 日本鋼管病院 整形外科医長
  • 1997年 社団育成社 佐々木病院 整形外科部長
  • 同1997年 横浜Fマリノス育成組織のチームドクターに就任
  • 2003年 社団育成社 佐々木病院 副院長に就任
  • 2005年 昭和大学 医学部 整形外科兼任講師を兼務
  • 2016年4月 日本鋼管病院 整形外科部長
  • 2017年4月 日本鋼管病院 副院長・整形外科統括部長 就任
  • 2018年4月 日本鋼管病院 スポーツ整形外科センター長を兼務
  • 2022年4月 昭和大学医学部 整形外科 客員教授
資格など
  • 日本整形外科学会スポーツ医学会代議員
  • 日本体育協会公認スポーツドクター
  • 昭和大学医学部 整形外科 客員教授
  • 日本整形外科学会専門医
学位
  • 1996年 研究テーマ:半月板縫合術後の修復過程における断裂部の神経・血管の観察。 において医学博士(甲)取得
業績

1997年から2007年までの10年間 “横浜・Fマリノス” のユース、ジュニアユース、プライマリーチームのチームドクターとして活動。

  • 2006年 日本膝関節学会“ベストペーパー・オブ・ザ・イヤー・2006” 受賞
  • 2016年 JOSKAS2016 ベストポスター賞 受賞
  • 2018年 JOSKAS2018 ベストポスター賞 受賞